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VINTAGE
  • 2025年11月28日
  • 2025年10月16日

ハイブランド買取物語7 ロレックスのアンティークサブマリーナ 七瀬幸子の場合

七瀬幸子(67)は現在断捨離の真っ最中だ。
大きな段ボールとゴミ袋に、身の回りのものを仕分けていく。
懐かしさで捨てられないものも多いが、消耗品を中心にどんどん捨てるものを増やしていった。
そんな七瀬だが、1本の腕時計を前にしてその手が止まる。
光沢のあるブレスレットに黒の文字盤、その中心にはROLEXの文字。

「あらまあ、こんなところにあったのね」

七瀬は腕時計を見つめて、腕時計の主に思いを馳せた。

不思議な出会いと再開

七瀬がその人と出会ったのは、およそ50年前。
七瀬はひとり病院の屋上庭園でひとり、ベンチに腰掛け夕陽を眺めていた。
足のギプスは重く、松葉杖が仰々しい。
「歩きにくくて嫌になっちゃう」
家族の面会はない。共働きの両親は、病院に娘を任せて医療費を稼いでいた。
たまに友達が来てくれるが、週に1度程度だ。
七瀬は気にしていなかった。むしろ一人気ままなこの時間を楽しんでもいた。
学校にも行かずにのんびりと過ごせる時間なのだ。思い切り満喫しよう。

紙コップに注いだ水を飲む。
今日の夕日はなぜかいつもより綺麗だ。
「はへ〜、綺麗だねえ」
「うん、僕もそう思う」
独り言のつもりで呟いた言葉に返答があったものだから、七瀬は飛び上がる勢いでびっくりした。
知らないうちにベンチには同い年くらいの男の子が座っていた。
「夕日が好きなの?」
「あ、いや、そんなに……」
「そうなんだ。僕は好きだよ。あのね、綺麗に見える時間ってのがあってね……」
別に興味などないと仄めかしているのに、夕日についてベラベラと喋り出す。
けれど彼があまりにも面白そうに話すものだから、七瀬もだんだん興味が湧いてきた。
彼の話に耳を傾け、気づけば夕日はとっくに沈んでいた。
彼と病院で話したのはその一度きり。程なくして七瀬が退院したからだ。

その後、七瀬は家からほど近い大学の看護学科を受験して合格。
大学に進んだのは、医学部のイケメンとの出会いを期待していたから。
なんとも不純な動機ではあるものの、合格したのだから進学できる。
その入学式で、夕日の彼と再開したのだった。

「久しぶり!私のこと覚えてる?」
思わず声をかけると、彼はいぶかしげに見つめた後、「ああ、入院してた時の」と手をぽんを打った。
それから二人の仲は急速に縮まった。
勉強で忙しい合間を縫ってデートを重ね、いつしか親公認の仲になっていた。

彼は医学部生だった。
七瀬の方が先に就職して社会に出たが、二人の関係は変わることなく、彼の卒業と同時に結婚した。

最後のデートとロレックス

それからは怒涛の勢いで日々が過ぎていった。
妊娠、出産、引っ越し、子育て……
目まぐるしく日々が過ぎ去り、気がつけば子どもたちは皆成人して独り立ちしていった。
それから七瀬はヘアサロンやショッピングに勤しむようになった。
ようやく時間と心の余裕ができたからだ。

医者として働く彼の方も余裕が出てきた。
自宅でゆっくりご飯を食べている姿を見て、ほっと胸をなでおろす。
「ねえ、久しぶりにデートしましょうよ」
「ああ、いいよ」

子どもができてから初めてのデート。そこに彼がつけてきたのが例のロレックスだ。
「あら、あなたこんなの持ってたの?」
「うん、つい買っちゃった」
言葉よりも誇らしげな様子で高々と掲げると、腕時計は光を反射して腕におさまっている。

初めてふたりで出かけたあの頃からもう20年は過ぎていた。
けれど過ごす時間はとても新鮮で、あの頃のように町中がキラキラと輝いて見えた。
手を繋いで歩くと胸が高鳴る。
変な出会いだったけど、この人と結婚してよかった。
その2日後に彼は突然亡くなった。

思い出はそのままに新たな世界へ

医者の不養生とはよく言ったものだ。
遺された七瀬は彼の私物を片付け、相続をやりきり、彼との人生を振り返りながら余生を過ごしている。
けれども、そろそろ前に進む時かもしれない。悲しい時間は十分過ごした。
これから新しい世界に飛び込んで、新しい自分を見つけるのだ。

七瀬は思い切って外国へ旅行に行こうと思っていた。
年齢的にタイミングはもうギリギリだろう。
数ヶ月は家を空けるつもりだったので、七瀬は断捨離を始めた。
その途中で例のロレックスを見つけたのだった。

「ねえ、あなたも外国行きに賛成してくれる?」
「行っておいでよ。国によって見える夕日が違うんだよ」

妄想の中でさえ夕日のことを話す彼に、もはや笑うしかなかった。

冒険に出かけよう

世界旅行から帰宅した後、七瀬はそのロレックスを売却した。
新たな人生を切り拓く時が来たのだ。
相続の時に査定額はおよそ掴んでいたが、当時とほぼ同じ値段なのには驚いた。
「古くなればどんどん値段は下がると思っていました」
「これはアンティークですから。古くなっても価値は下がらないんですよ」
査定してくれた店員の返答に、なるほど、と頷いた。

思い出と同じだ。
色褪せたところで消えはしない。価値は下がらない。
なんなら時間と共に昇華され、いつの間にか当時よりも素晴らしい物だと感じるようになる。

彼のロレックスは現金に変わった。
このお金は子どもの結婚費用に充てるつもりだ。
さて、これからどうしよう。
何をするにも自由。
またどこかへ旅行するのも良いだろう。社会人大学で学ぶ直すのも面白いかもしれない。
何かのボランティアで交流するのも楽しそうだ。

「ねえ、夕日の写真集を作ってよ」
「ええ〜?気が向いたらね」

彼の幻影からのおねだりをさっとかわし、七瀬は自分の道を歩み始めた。